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訪問診療の難しさ

  訪問診療の難しさ 外来での診療との違い

 
医療法人社団カワサキ 理事長 川崎正仁

前回は私自身の過去の体験をもとに、歯科と介護の接点についてのお話をいたしました。 
今回は、訪問診療などの介護現場においての診療の難しさと外来診療との違いを様々な関わりの場面でお伝えしたいと思います。

1.開始前

 ・治療目的把握の難しさ
  外来にいらっしゃる一般の患者様は、例えば「右下の奥歯が痛くて噛めない」「入れ歯が合わない」「歯茎が腫れた」などの主訴を持ち、自らの意思で歯科医院にやって来ます。
したがって、既にニーズが明確になっているために主訴を改善するための計画から同意を得て治療に進むまでスムーズに進んでいきます
ところが、訪問診療で関わる患者様は自らの意思で診療を希望していないことも多く「寝たきりのお爺ちゃんは入れ歯かな?」「お婆ちゃんが食事しにくいみたいだ」「口臭が気になる」「口腔ケアをしてください」「誤嚥性肺炎を繰り返す」等々ご家族や関連職種からの訪問依頼を受けてご自宅や施設に診療に伺います。
そのため、それぞれの方からの訴えを聞き出し、「何に困っているのか?何をしてほしいのか?」などなど、生活環境や経済状態などの聞き取りから始まり本人だけではなくご家族や関連職種の同意を経てから医療的な情報をケアマネージャ、医師、薬剤師、訪問看護、リハビリ職などで連携し患者様の状態を把握しながら診療を始めます。

2.診療開始後

・治療スケジュールの確保が困難
外来では予約制を取って診療計画通り進めていきますので、患者様のモチベーションも上がりやすく治療終了までスムーズに進みます。
また、もし症状の急変などがあったとしても、自らの訴えがあるため対応しやすく早めに解決が可能です。
訪問診療では、他業種のスケジュールと日程調整を図りながら診療計画を進め、なるべく一回の訪問で多くの処置をすることで治療回数や治療費の負担軽減を考えながら実施します。
しかし、症状の急変時には訪問できない場合もあり、早めの対応が困難なときは、外来で受診して頂くことになります。しかし、前回お話したように外来をバリアフリーにすることで多くは解決できますが、実際、外来に通うためには付き添いが必須になるわけです。

3.診療中

・通院のための搬送に費用と時間と人手がかかる
要介護の方が外来で診療するにあたって、メリットとしては、機材設備やスタッフ人数も揃っているのでどのような病態や状態においても対応可能です。
デメリットとしては、通院のための搬送に費用と時間と人手がかかること。
また、他の患者様の治療の兼ね合いでお待たせしてしまう場合もあるため、長時間座位姿勢をとることもあり得ます。

4.診療後

・口腔ケアの優先度が低い
外来も在宅や施設も共通して言えることは、毎日の口腔管理とメンテナンスが一番重要です。
とかく、歯科治療が終了したら安心と思われがちですが決してそうではありません。
『また痛くなったら歯医者に行こうかな~?』
『入れ歯が合わなくなったから新しく作ろうかな~?』
『治療途中だが痛みが消えてからしばらく様子見ようかな?』
『また悪くなったらお願いするよ~』
とお考えの方々は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
当然、個人個人様々な事情があると思いますので一概には言い切れませんが、口の中は後回しにされがちというのが実際のところでしょう。

一般外来の患者様に対しては、『痛みが出てから受診すると治療回数が増えるだけではなく、痛みの出る治療が多くなり結果として歯医者嫌いになることで足が遠のくため、結局また重症になってから受診するといった悪循環に陥りますよ!』とお伝えします。

入れ歯に関しても、使い心地が良いと思っても、確実に歯は磨り減っていくので知らず知らずのうちに咬み合せが低くなり、ズレの限界を超えると突然に痛みが出だしたり破損したりして食事や会話が不自由になり日常生活に影響してしまいます。

そこで、“治療終了時からが本来の歯医者の使い方”との認識をしていただくためのお話をしっかりさせていただいております。

訪問診療でも同じ考えですが、日々の管理はご家族にゆだねることが多くなり、あまり多くを求めると介護負担をかけてしまうので、簡単に出来ることを探しながらご指導しております。

施設においては介護職員の方と口腔に関する勉強会などを行いながら、共に情報共有しご利用者様やご家族の不安を出来るだけ少なくするように努めております。
介護職員の方も仕事の合間に勉強をすることになるため、出来るだけ業務負担をかけずに、如何に業務効率が上がり仕事のやりがいに繋がるような研修内容にしており、我々歯科専門職も介護から様々な理念を学ぶ志で実施しております。

5.歯科医院側の課題として

・訪問用の器具機材を揃える経費が多額にかかること
  訪問診療の最大のメリットとしては、要介護の患者様を抱えるご家族や施設職員の方々の日々の生活リズムやお仕事にたいして、移動の時間などの労力を軽減することが可能なことです。
いわゆる老老介護や独居の方などの話し相手になることで、発声する機会が増え口腔機能向上にもなりますし、体のこと以外でもお部屋の暑さや寒さの温度加減もケアマネージャさんなどにもお伝えできます。
最近ではかなりコンパクトになった歯科器具機材があるので、あまり大掛かりにならずに訪問診療を実施できるようになりました。

またデメリットとして、訪問用の器具機材を揃える経費が多額にかかること。
外来診療もあるためサービス担当者会議などの地域連携の機会になかなか参加する時間が取れない。
制度上の問題ですが介護保険と医療保険を使用するために書類数も多くなり少々説明に時間がかかる。
過去に訪問に関わる人材育成制度が歯科大学の学校教育に無かったため、現場経験のある教育者が少なく歯科医師や歯科衛生士など介護に長けた人材育成に時間がかかってしまう。

このように、全国の歯科病院や歯科診療所における課題も多く、今後の少子高齢社会の日本を担う歯科医療従事者を介護現場でどのように役に立たせるか、また、活躍させるにはどのような考えで挑んでいくべきなのか、多くの課題が山積しているのも実情です。

次回は ~口腔ケアの最新のトレンド~ をお伝えいたします。

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